女子栄養大学臨床医学研究室の津下一代教授(栄養科学研究所兼任所員)が代表を務める多機関共同研究チームは、日本における心血管疾患予防を目的とした特定健康指導の一形態である動機付け健康指導プログラム参加者を対象に、市販のmHealthアプリ利用を促す指導が実際にアプリの利用や生活習慣、また心疾患のリスク因子の改善につながるかを調査しました。近年、市販のモバイルヘルス(mHealth)アプリを生活習慣の改善支援に活用しようとする取り組みが広がっていますが、健康指導の場における個人の行動目標に基づいたアドバイスがこのようなアプリの利用促進につながるかは十分明らかになっていませんでした。
この調査は、2021年に特定保健指導に参加した経験があり、リスクが比較的軽度の人を対象に行われる動機付け健康指導プログラムに参加した156名を対象に実施されました。参加者はアプリ利用を促す指導を行った介入群(n=76)と比較するための対照群(n=80)に群分けされました。両群に標準的な健康指導が行われましたが、介入群では各自が立てた目標に沿って、運動や食事、アルコール摂取や体重管理などに活用できる6種類のmHealthアプリの利用を推奨されました。これらmHealthアプリは無料あるいは低価格で使用でき、最終的な使用の選択は参加者に委ねられました。参加者はmHealthアプリの利用状況や生活習慣、また体重の変化を3ヶ月後に評価され、また1年後に実施された健康診断のデータについても評価されました。
調査の結果、3ヶ月後のmHealthアプリ利用者の割合は、介入群(68.4%)が対照群(40.0%)よりも統計学的に有意に高くなりました(図1)。また、mHealthアプリを利用する習慣的な頻度や生活習慣の改善、そして体重の減少なども介入群でより高くなりました(表1)。さらに、1年後の健康診断で中性脂肪の値が改善するなど、介入群では代謝面でも改善が認められました。
表1.群間における3か月後のmHealthアプリ利用状況、生活習慣の改善、体重変化の違い
本調査の結果から、健康指導の場で人的・財政的資源が限られていても、mHealthアプリを効果的に組み合わせて活用することで、行動変容や健康改善を促進することができる可能性が示されました。本研究は、デジタルツールを活用した保健指導という新しいモデルを提案するものであり、将来的にはより広い集団や地域への応用が期待されます。
論文情報
タイトル:Effectiveness of recommendations in promoting the use of mobile health applications in health guidance: a randomized controlled trial
(モバイル健康アプリの利用促進における推奨事項の有効性:健康指導におけるランダム化比較試験)
著者:Takeshi Onoue, Kazuki Nishida, Yoshio Nakata, Fumi Hayashi, Miki Marutani, Naoki Sakane, Jiro Moriguchi, Shigeki Muto, Kiminori Kato, Izuru Masuda, Tomonori Okamura, Keiichi Matsuzaki, Takashi Kawamura, Kazuyo Tsushita.
掲載誌:Journal of Occupational Health, Volume 67, Issue 1, January-December 2025, uiaf036


